| 青い海、まぶしい太陽、美しくゆれる原色の花々。 俺たちの生まれた南の島は、外の人間から見たらまるで楽園で そこで生まれ育った者も、同じように楽園にふさわしい人間だと評されるけれど 今の俺たちは楽園を追われている追放者のようだ。 『楽園』 「あちさんやー」 「やっさーやー こんなカンカン照りの日に外出歩くなんてよー こっちはいい迷惑さぁ」 「だーるなあ いやったーどこ行ったんかねぇ」 「えー 凛くんよー ひろしー見つけたらどうするば?」 「あ? そーだなー、わん 寛のこと本気で好ちだからよ」 「おー」 「だからよー 殺そうかなって思ってるわけよ」 「だーるなぁ 凛くんすっごくひろしーのこと大事にしてたのに酷いよねぇ」 「やさやさ それいゆったら永四郎もどー」 「・・・だからよー・・・・・・」 「泣くなよー 裕次郎 やあも永四郎殺しちゃえばいいさぁ 」 「グスッ・・・・わんはエーシローのこと一生に一度の相手だと思ってたのに・・・・」 ざわ ざわざわざわざわ 見わたすかぎりのサトウキビが枝をゆらし、波のように身をゆすっている。 真昼のサトウキビ畑には動くものの影は自分達とキビ以外になく 照りつける太陽の下で時間が止まっているようだ。 握り合った手のひらはどちらのものとも知れぬ汗でぬるつき ほどけそうになるけれど 決してといてはいけない呪いをかけられているみたいに、ほどけそうになるたび 互いにきつく指をからませ直してはもくもくと歩いている。 俺の手には黒い旅行バック。 長身の知念君は肩掛けのバックをななめにかけている。 お互いに荷物はおどろくほど少なかった。 「・・・・・・えいしろう、わっさんどー」 つぶやいた知念君の顔は強い日差しで影になってて、表情がよくうかがえない。 日差しで目がまぶしい。 「悪くないですよ 知念君は」 そうだ 知念君は悪くない。そして俺だって。 俺は甲斐君が好きだ。試合のときに殺気を帯びる真剣な顔も、笑うと犬みたいに かわいいところも、日に焼けたしなやかな四肢で俺の体にからみつく熱い感触も。 でもそれだけじゃ足りなかった。 彼の器用な指にすくいとられるように、いつの間にか知念君を選ぶしかできなくなってしまった。 隣の彼は何を思って俺を選んだのか。 ちらりと無言で歩く知念君を見上げた。 彼はこんな時でもとても静かな気配をまとっていて、時々人間よりも森の奥で生きる精霊に 近いんじゃないかと思う。 『寛ーはさ、わんのこと好ちなのは確かなんだけど 考えてることはよく分からんさぁ』 不意に平古場君の言葉がよみがえる。 俺は多分平古場君が ”分からない” と言った部分のことが少しだけ理解できるのだ。 お互いとても好きで、大事にしている恋人がいるのに、気持ちは潮が満ちるように 惹かれ合った。 そして今、手に手を取ってその愛情深い恋人たちから逃げようとしている。 照りつける光が強いと、うかび上がる影は暗く濃密であるように、この島の男の愛情は 強くまぶしく、相手を縛り付ける。 愛情が循環する先を失えば、強い思いは空回り重く蓄積される。 その様を見るのがこわくて、俺は逃げた。 「えー 凛くん 殺したらどうするば?」 「そーだな、わんよー おばあの持ってる山に、誰も拝みに来ない墓があるの知ってるさあ 空の甕(ガン)もあるからよー。 そこにでも寛ー入れようかねー 」 「あい、ひろしーじゃ甕に入りきるかやー」 「ハハハ まぎさんどー」 「だーるな」 「7年したら、ちゃんと洗って 知念ぬ家ーぬ墓にこっそり入れてあげようかねー」 「凛くん洗骨のしかた知ってるさあ?」 「まかちょーけー。おばあの手伝いでしたことあるさあ。あんときは臭くて怖くてイヤだったけど 人生何が役立つかわからんさ」 「凛くんすごいやあ わんも教えてもらおうかな」 「裕次郎はどうする?」 「わんは・・・・・・わんぬ家ぬ墓に入ってもらおうかな。エーシロー嫌がりそうだけど」 「やーぬ墓別の島やたんやー?」 「やさ!遠すぎるかねー。ちばってこっちに墓作ろうかなー」 「おー 作れ作れ」 「愛してるなら、それくらいしてやらんとねー」 アスファルトで舗装された道が見えてきた。 ゆらゆら熱気で空気が揺らぎ、その先の風景をゆがませている。 あの道をたどって港へ出れば、さらに別の島へ渡る船が俺たちを待っているはずだ。 「知念君」 「ん?」 俺はちょっとだけ彼に向かって笑ってみせて、つないだ手を強く握り直した。 END 2008.9.22 |